「風呂掃除をさぼっているとあかなめが出るぞ!」・・・昔の人はこんなことを言っていたのかもしれません。垢嘗(あかなめ)とはどんな妖怪なのでしょうか?その歴史も紹介します。
妖怪「垢嘗」とは
垢嘗は、風呂場や風呂桶にたまった垢を嘗め、食うと言われている妖怪です。
裸んぼうの人間の子供によく似た姿をしていますが、垢をペロペロ嘗めるための長い舌と、風呂場で滑らないようにするための足の鉤爪が特徴です。バッタリ出会うことがなければこれといった害はないので、ついつい掃除をさぼっていた風呂場がいつの間にかきれいになっていてむしろありがたいかもしれませんね。
実際に見たことがある人はいないとされていますが、噂によると、その長い舌で嘗められると力が抜けてしまうようです。風呂だけでなく嘗める対象は何でもいいみたいですよ・・・ちょっと怖いですね!真夜中に風呂場からペチャペチャと何かを嘗める音が聞こえてきたらそこに垢嘗がいるのかも?!
妖怪「垢嘗」の歴史
江戸時代の怪談本「古今百物語評判」には、垢嘗の起源であるらしい「垢ねぶり」という妖怪が解説されています。これによると「垢ねぶり」は、古い風呂屋に棲む化け物であり、荒れた屋敷などに潜んでいるといわれています。そしてもともと、塵や垢の気が集まった場所から変化して生まれた妖怪で、風呂桶にこびりついた人間の垢を嘗めながら生きているそうです。
同じ江戸時代には、鳥山石燕の「画図百鬼夜行」や歌川芳員の「百種怪談妖物雙六」の中で口から舌を出している子供のような妖怪の絵が垢嘗として描かれています。
実は、当時の日本人は妖怪が現れるだけでも気持ち悪く感じたので、垢嘗が風呂場に現れないように普段から風呂場や風呂桶をきれいに洗い、垢をためないように心がけていたそうです。さらに、垢には「心の汚れ」といった意味もあるので、風呂をいつもきれいにしておくことには、穢れを身にため込んではいけないという教訓も込められているのです。
垢嘗は、風呂も心もきれいに保とうとしていた日本人の真面目さから生まれた妖怪なのかもしれませんね。昭和・平成から今ではさまざまなマンガやアニメで表現されており、人気を博しています。人間に襲い掛かる怖い妖怪ではなく、ふだんはこっそりと隠れている妖怪なのでそれほど怖くないのも人気の一つなのかもしれません。
風呂に垢がたまる仕組み
そもそも、垢嘗が大好きな風呂の垢はどのようにたまっていくのでしょうか?
人間の入浴の目的の一つは垢を落とすことです。入浴すると、体の表面についている垢が剥がれ落ち、お湯に流れ漂います。その風呂桶からお湯を抜いた後、垢は湯垢として風呂桶にくっついてしまうのです。垢は水分がある時は粘土のようですが、乾くと干からびたカスや粉のようになります。どちらにしても付着したままになっており、あまり気分のいいものではありません。そのままにしておくとどんどん溜まって不潔な状態になるのできちんと掃除をしておく必要があります。
入浴後の風呂桶の垢は、つねに流して落とすようにしたいものです。少しでもくっついたままにしておくと真夜中に垢嘗が出てきてペロペロしちゃうかも・・・。
まとめ
垢嘗は、もともと垢やゴミの溜まったところから生まれて、風呂の垢を嘗めながら生きている妖怪です。一見、人間の子供のようで直接危害を加えることはないのですが、長い舌でペロペロと風呂を嘗めている様子はやっぱり気味が悪いものですよね。
妖怪が現れないように風呂を清潔に保つだけでなく、心もきれいにしておきたいと考えていた日本人が生み出した垢嘗。ひょっとしたら垢嘗は、人間に向かって「風呂の垢も心の垢もいつもきれいにしておかないといけないよ」と伝えてくれているのかもしれません。
ぜひ風呂だけでなく心もキレイにしていたいものですね。風呂をきれいにしてくれる上、教訓を教えてくれる垢嘗に感謝です!