「あぶらとり」には二つの言い伝えがあるようですよ。いったいどんな妖怪なんでしょうか?調べたところ、ぞっとする話も出てきましたよ・・・!
妖怪「あぶらとり」とは
「あぶらとり」には、「灯油取り」(あぶらとり)と隠し神の一種である「油取り」の二種類の言い伝えがあり、前者は今昔物語集の中で語られており、後者は明治時代に起こった俗説からのものです。どちらも妖怪としてのはっきりとした姿はわかりません。
「灯油取り」の伝説
灯油取り(あぶらとり)は、日本の説話集『今昔物語集』で語られている妖怪伝説です。
延喜時代のことです。仁寿殿にある灯油が夜な夜な何者かに持ち去られていました。持ち去った者の正体をつきとめるよう勅命が下り、公忠という殿上人が志願しました。
ある大雨の真夜中、公忠は仁寿殿に近づく大きな足音を聞きます。犯人かと思いきや、姿は何も見えず、仁寿殿の灯油は宙へと浮かび上がっていきました。とっさに公忠が、目に見えない相手をキックすると灯油は落ちて足音も消え去りました。その後、灯りを照らしてよく見ると、自分の足の指の爪が剥がれているだけだったということです。
その翌朝、灯油取りが現れたと思われる場所を見ると、多くの血の跡が残されていたものの、姿はどこにもありませんでした。しかしそれ以降、灯油取りの怪事件が起きることはなかったといわれています。
透明人間のような妖怪だったのでしょうか?それにしても灯油が大好きな妖怪なんですね!
隠し神の「油取り」
前述の灯油取りの伝説とは異なり、子供をさらう妖怪「油取り」もいたようです。「隠し神」の一種として「油取り」の言い伝えがあります。隠し神とはどんなものなのでしょう?
隠し神(かくしがみ)は、日本の妖怪の一種で、夕方頃に現れ、遅くまで遊んでいる子供や、かくれんぼをしている子供をさらうといわれる。この種の人さらいの化物の伝承は日本各地にあり、その語彙も様々である。
Wikipedia「隠し神」より
隠し神とは、子供を狙う人さらいのことですね。明治時代の東北地方における俗信で、油取りと呼ばれる何者かが子供を誘拐して、その体を絞って油を取るといわれたのが「油取り」のことです。
明治維新の頃には、東北の村々でこの油取りの噂が広まり、「今日は誰々の家の娘が遊びに出ていてさらわれた」「昨日はあそこで子供がいなくなった」などという風説が毎日のように流れました。
同時期に柴で作られた小屋の跡が川原にあり、魚を焼くための「ハサミ」と呼ばれる串が捨てられていたため、油取りはこのハサミに子供を刺して油を取るともいわれたようです。ちょっとこじつけのような気もしますが、当時はパニックになるくらい大騒ぎになっていたということです。特に女の子からいい油が取れる、といった噂まで流れ、娘を持つ親たちはさぞや恐ろしかったことでしょう。
ちなみに、『遠野物語拾遺』では、油取りは根の脚絆と手差しを身に着けた者で、これが現れると戦争が始まるとの記述が見られます。
他にもこんな隠し神が
夕暮れ時に、外にいていつまでも家に帰らない子供をさらって行くという隠しん坊(かくしんぼ)や、子供たちが夕方にかくれんぼをして遊んでいると、どこからともなく現れて子供をさらってしまうという隠れ婆(かくればば)、泣いている子供を見つけると叺(かます)に無理やり詰め込んでさらっていく叺親父(かますおやじ)、東北の油取りと同様に子供を絞って油をとり、南京皿を焼くために用いたという島根県の子取りぞ(ことりぞ)、幼児の魂をさらうアイヌの妖怪、化物婆(ばけものばば)など、地方によってたくさんの隠し神がいます。
「隠し神」の伝説の数々は、言うことを聞かない子供をしつけるために生まれたものなのかもしれませんね。
まとめ
単に灯油を盗むだけの妖怪と子供をさらって体を絞る妖怪、同じ「あぶらとり」でも全く違います。それにしても、子供の体を絞って油を取る、なんて恐ろしい妖怪にはぜったいに会いたくありません。灯油を盗むだけの妖怪の方がぜんぜんマシだと言えますよね!