どこからともなく現れて勝手に髪をバッサリと切っていく妖怪のことをご存知でしょうか?
髪を伸ばしている人にとっては実に迷惑な妖怪ですが、髪を切りに行く時間がなく伸びっぱなしになっている人にとっては好都合?そんな妖怪「髪切り」についてまとめてみました。
妖怪「髪切り」とは
髪切り(かみきり)または黒髪切(くろかみきり)は、突然現れて人間の髪をひそかに切っていく日本の妖怪のことです。
江戸時代に描かれた絵巻物には、くちばしが長く、手がはさみのようになっている姿の妖怪が「髪切り」として描かれています。画中には髪切りが切ったと見られる長い頭髪も描かれているため、解説な特にありませんが、人間の髪を切る妖怪ということがわかります。
また、歌川芳藤 による錦絵『髪切りの奇談』にも、遭遇したという話による真っ黒い姿として描かれています。
正体不明という記録も多いのですが、室町時代の『建内記』や中国の『太平広記』では、キツネの仕業とされていますし、江戸時代後期の風俗百科事典『嬉遊笑覧』には、髪切りは「髪切り虫」という虫の仕業であるという話があったことが記されています。
ちなみに1771年から1772年にかけて、江戸や大坂の人々の間で髪切りの騒動が多発しました。この際は「かつら」を売るために仕組まれた事件とされ、江戸では多くの修験者、大坂ではかつら屋が処罰されたそうです。しかし、騒動を終息させるためだったのではないか、という説もあります。また一部には実際に髪切りを自作自演してお札を売りつける者もいたということです。
さらに、女性の頭髪を切る行為に快楽を感じるマニアも存在していることから、髪切りの伝承は人間による犯行という話もあります。また、何者かに髪を切られるのではなく、自然に髪が抜け落ちる病気との説も。
様々な「髪切り」の伝説
妖怪髪切りの話は江戸時代の市街地でたびたび噂になり、その出没の記録が見受けられます。
江戸時代の説話集『諸国里人談』には、元禄のはじめごろ三重県や東京都千代田区で、夜中に道を歩いている人が髪を切られる事件が多発した話が記載されています。本人はまったく気づかずに切られ、その切られた髪はそのまま道に落ちていたということ。そして、このような怪異事件が江戸の各所で起きたとされる記録が大田南畝の『半日閑話』などに載っており、特に商店や屋敷の召使いの女性が多く被害に遭ったそうです。
1874年には、「ぎん」という名の召使いの女性が髪切りの被害に遭ったそうで、そのことは当時の新聞でもちゃんと報じられています。
東京都本郷の鈴木家での話です。夜中に鈴木家に仕えるぎんが屋敷の便所へ行ったところ、寒気のような気配と共に突然、結わえた髪が切れてざんばら頭になったということ。その後、この便所のあたりを調べると、斬り落とされたぎんの髪が転がっていたそうです。「あの屋敷の便所に髪切りが出た」という噂が広まり、誰も近寄らなくなってしまったという後日談もあります。
現代における髪切りの話として、漫画家の水木しげる氏は、髪切りのことを人間が獣や幽霊と結婚しようとした時に現れて髪を切ってしまう妖怪だと自著の中で解説しています。
まとめ
「髪切り」は正体不明なものの、実際にあった怪事件が元になった妖怪だということがわかりました。
当時、頻発していた怪事件を妖怪「髪切り」のせいということで片付けたのでしょうか。髪を切っていくだけとはいえ、ちょっとずれたら頭や首が切られるかもしれませんから、現象としてはかなり怖いですね。現代とは違って、江戸時代、髪は女性にとっては大切なものだったわけですからショックも大きかったのかもしれません。